夢の中では、見慣れない場所にいても、知っているはずの人の顔が違っていても、その場を現実として受け入れている場合があります。目が覚めてから振り返ると不思議なのに、夢を見ている最中には不思議とも思わない。その差は、どこから生まれるのでしょうか。
レオナルド・ディカプリオ主演の映画『インセプション』は、夢の中へ入り、他者の心にアイデアを植え付けるという物語を描いています。映画の設定はフィクションですが、夢を現実として体験している意識に目を向けるきっかけにはなります。夢の風景を細かく思い出す前に、風景を疑わずに受け入れていた自分の側を見てみると、夢の捉え方も変わります。
夢を現実にしているのは何か
現実という言葉には、少なくとも二つの意味があります。一つは、他者とも確かめられる出来事や環境。もう一つは、自分が今、実際に体験している感覚です。眠っている間に見た街が、目覚めたあとも同じ場所に存在するとは限りません。それでも、夢の中で感じた驚きや楽しさは、夢を見ている間には確かな体験だったはずです。
夢を現実と呼ぶなら、どちらの意味で話しているかを分ける必要があります。夢の出来事が外の世界で起きたという主張と、夢が体験として成り立っていたという見方は違います。両者を混ぜたまま話すと、夢への関心が、何でも事実として信じることにつながってしまいます。
夢の中では、場面だけでなく、場面を理解するための前提も一緒に受け入れています。例えば、夢に知らない家が出てきたのに、自分の家だと分かっているような場合です。家の形から考えて判断したというより、最初から自分の家である世界にいる。体験のリアルさには、見えているものと、それをどう認識しているかの両方が関わっています。
目覚めた生活にも前提がある
起きている間は、場所や時間、相手の名前などを周囲と確かめられます。生活の約束が共有され、同じ出来事について話せる。その働きは、現実の世界を生きるうえで欠かせません。
ただ、共有できる環境の中にも、自分が当然だと思っている見方はあります。誰かから返事が届いていないとき、忙しいのだろうと受け取る場合もあれば、嫌われたのだろうと考える場合もあります。返事がまだないという状況は同じでも、意味づけによって体験の中身は変わります。
嫌われたという思いを事実と同じ位置に置くと、相手の表情や過去の言葉まで、その思いに沿って読み始めます。何が起きたかを見るつもりが、いつの間にか、自分の前提に合う材料を集めている。夢の中で家を自分の家だと疑わなかった状態と、まったく同じだと言うつもりはありません。けれど、前提を前提として認識するという点では、夢と現実を並べて考える意味があります。
意識が広がると、確かめる余地が生まれる
意識の拡大を、特別な景色を見ることだけで捉えると、日常生活との接点が少なくなります。自分の見方を含めて体験全体へ目を向けることも、意識の広がりとして扱えます。何が見えているかに加えて、どんな意味を与えているか、何を当然としているかまで関心が及ぶからです。
相手に嫌われたという考えが浮かんだとき、考えを消す必要はありません。思考には、関係を理解したり、行動を選んだりする役割があります。ただ、浮かんだ考えを唯一の答えにせず、まだ確認していない見方として置いておく。すると、相手に確かめる、しばらく待つ、別の用事へ戻るといった選び方が残ります。
意識によって外の出来事を自由に操作できる、という話ではありません。自分の認識と、他者の事情や共有される事実を区別しながら、体験に参加する話です。自分の側の意味づけが見えるほど、相手の言葉を最初から決めた答えへ押し込めずに聞く余地も生まれます。
夢の問いを、今の体験へ持ち帰る
夢を明晰にするという言葉を、夢の中で夢だと気づくことだけに限定せず、夢をどう体験していたかが明らかになるという意味で捉えると、映画から受け取れるものも広がります。夢の内容をすべて解読したり、象徴に決まった意味を当てはめたりする必要はありません。
目覚めたあとに覚えている場面があれば、何を当然だと思っていたかを振り返れます。追いかけられる夢なら、相手が誰かという分析だけでなく、逃げるしかないと受け入れていた前提へ目を向ける、といった見方です。夢の前提から、本人にも気づいていない真実を断定することはできません。振り返りは、自分の体験を考えるための材料です。
「夢は現実であり、現実は夢である」という言葉は、生活を投げ出すための結論にするより、現実だと感じている体験の成り立ちを問う言葉として読むと面白いと思います。今見えている景色、浮かぶ考え、感じている気持ち。その中で、出来事として確かめられる部分と、自分が与えている意味はどこにあるか。夢と現実の境目への関心が、今をもう少し明瞭に体験する方向へ向かいます。
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